詐欺師の竹山聡(たけやま さとる)がプレスリリースした「イメージフォン(3種)」のラインナップで主要製品となるのは、やはりオフィスユースで単価も高い、14人同時にインターネットでテレビ電話できる「会議システム」であった。2024年現在でこそZOOMでなじみの深いサービスではあるが、これを20年前にやろうという当時としては画期的なサービスであった。ただし、本当に存在したのであれば、だ。
私は、竹山にさらに*650万円を支払って「イメージフォン」の販売代理店となっていたが、大チャンスが巡ってきた。父親から紹介された大阪にある上場企業の専務(現在は社長)へのアポイントメントが取れたのである。土木建設機械の商社、言わずとしれた大企業だ。さすがに私の出る幕ではない、ここは時代を先駆けるベンチャー企業の若手社長と大商社を直接引き合わせる黒子に徹することにした。それが引いては自身の成功にもつながるだろうと思ったし、もちろんこのような私の働きに対して、未来を期待させる竹山からの「あなたは仲間だから」「IMGの株主にする」「新宿サザンテラスか六本木ヒルズをオフィスにし、あなたの場所も用意する」等の甘言の数々があった。
しかし、天にも昇るような気持ちの一方で、懸念点があった。私は「会議システム」の動作する様子を(プレスリリース時も含め)一度も見たことがなかったからだ。それまでにも「デモプレイでもいいから見させてほしい」と竹山に頼むこと数知れず。それともう一つ。営業相手は上場企業の専務(次期社長)である。なんの不満があろうか。私はもちろんだが竹山だって相当に乗り気で訪問準備にのぞむはず。が、それまで同様「忙しくて…デモのID・PW送れなくてすみません…」などとはぐらかすため、私は事前準備もままならない。自分が見たことも操作したこともない製品をどうやって説明できようか。
それでもあと一週間ある。それまでには…いや、竹山と一緒に訪問するのだから、そこで彼が「会議システム」のデモンストレーションやプレゼンテーションをしてくれる…
それから幾度だろうか、メールでも電話でも「二人用の新幹線のチケットを取りました」「ご準備よろしくお願いします」「私としても製品の動作を確認しておきたいです」などと再三再四の要請をした。が、竹山聡は「わかってます」「大丈夫です」と言いながら、「会議システム」を私に見せることはなかった。そうして訪れた出発前夜。たまりかねた私は竹山に最後の要請を行う。もし、万が一、竹山が同行しないとなると、私は上場企業の専務相手に見せられない製品を営業することになる。「明朝お迎えに参ります。なにとぞよろしくお願いします。どうかキャンセルだけはないよう…」
はたして出発日の朝。私が竹山聡の自宅を祈る気持ちで訪問すると-
竹山は件*の半笑いで拝むようなポーズを取り、「すみません、すみません、ほんっとほんっと急用がありまして行けないんです」と。あれほど念を押しておいてのドタキャンである。ふざけ切ったヤロウである。天を仰ぐ私。そしてやはり、私のまさに最後の願い「仕方ありません。私ひとりで行きます。デモのため、会議システムのID・PWを本日中にどうかメールで送っておいてください」は当然のごとく叶えられることはなかった。私はアポの夜、専務とその悧発な息子さんを相手に、宿泊先のホテルから1対1のテレビ電話のデモを行ない、竹山を連れて来れなかったこと、会議システムを見せられないことを詫び、きまずい挨拶をして失礼した。大企業専務の貴重な時間を拝領しながらもはや何がしたいのかもわからない15分だった。二度と対面することがなかったのは言うまでもない。
竹山聡は、大小さまざまな販売代理店から受け取っていた億単位の権利金、加盟金を横領しており、これに気づいた開発チームの離脱により「会議システム」を有していなかった。ここでトンズラするだけでは飽き足らず、自身を信じ続ける私をも騙したのだ。同郷の幼なじみ、幼なじみが連れて来た開発チーム、ペットも含めた家族ぐるみの付き合い(宿舎提供や食事接待、誕生日プレゼント、兄や両親の車での送迎等)をしていた私、食えない時に宿を提供した友人、なんのためらいも見境もなく、視界に入る者は誰でも、ダマせると見るやダマせるかぎりダマしを行う。ただし、ダマしの通用しない上場企業などへは決して近づかない。上場企業とのアポをすっぽかすような竹山聡に真っ当なビジネスの実績はない。また、竹山聡は私から金だけ奪い取ったのではない。息子を思って重要な顧客である大企業の専務に取り次いでくれた私の父親の心もゴミのように踏みにじり、父親のはからいに応えようと右往左往する私を平然と見ていたのだ。金をだまし取られたうえ、方々の信頼を失うことになるとも知らず、必死に竹山と力を合わせて事業の成功を願っていた私は途方もない阿呆である。


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